Masayuki Takizawa .WEB

フルート奏者 滝沢昌之のウェブサイト
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タッキーせんせいの
こだわりフルート塾

-意識改革編-

Vol.1 「ご挨拶」

こんにちは。はじめましての方がほとんどだと思います。僕は福岡に住んでいるフルート奏者です。滝沢昌之と申します。 Youtubeでは、これまで、リサイタルなどで演奏した際、その一部を、時々配信していたのですが、今回、違う形での動画を作ってみようと思いました。

今、新型コロナウイルスの蔓延によって、多くの方は外出を自粛して、家で過ごす毎日だと思います。僕がちょっと違う形で動画をやってみようと思ったきっかけは、家で過ごしている学生の皆さん、大丈夫かなって思ったからです。10代の子供達、悲観的になっていないですか?こんな状況だからこそ、何か一つでいいから、熱中するものを見つけてください。

フルートが大好きなみんな、部活できないから、つまらないですか?でも、部活がない今が、実はチャンスなんです!上手くなるチャンスです。

目が醒めるような、ちょっと嫌な感じのこと言いますが、部活で普段やっていることは、必ずしも、正解のことばかりではありません!部活では、正しい奏法、正しい音楽の在り方を、教えられぬまま、ただ一生懸命に、 たてを合わせたり、ピッチを合わせたり、大きな音で吹いたりしていることが、多いからです。

僕は、フルートを吹いてかれこれ30年になります。演奏だけでなく、若い時には、中学校や、市民ブラスなどへ教えに行っている時期もありました。中には、素晴らしいトレーナー、素晴らしい指揮をする先生もいらっしゃいますが、残念なことに、多くの学校では、間違った勉強の仕方をしています。

学生の皆さんに言いたいのは、部活がない今、本当に身になる練習をして、クラシック音楽をたくさん聴いて、「美しい音楽」に出会って欲しいということです。

今、みんなが逆境の時ですよね。でも今までだって、たくさんの逆境がありました。でもいつでも、僕は音楽に救われてきました。それはバッハの祈りだったり、モーツァルトの光だったり、ベートーヴェンの強靭な強さだったり、シューマンやブラームスの愛だったりします。その都度、音楽に治癒されて、再起する勇気を与えられました。

騙されたと思って、今の時期だけでもいいから、「部活」を超えて、「芸術」に心を寄せてみませんか?その足がかりになればと思って、これから動画を配信していきますので、少数の人でもいいから、届けばいいなあと思っています。

一本の動画は、長いと、見るのがしんどいかもしれませんので、だいたい5分から10分以内で作りたいと思っています。 今回は、お話だけで終わりますね。ではまた、次の動画でお会いしましょう。

Vol.2 「頭部管どうやってあたためる?」

こんにちは。フルート塾2回目です。だんだん塾っぽくなりますからね。まだ始めたたてで僕も手探りなので、なんかゆるい感じですけど。。

さて、何から始めようかと悩んだのですが、「頭部管、どうやって暖める?」についてお話しします。 みなさん、演奏前、どうやって楽器を温めてます? 唄口をこうやって塞いで、フーって、速い息でやっている人、います?たくさんいますよね? 僕もそうしてた時あります。でも、これ、あまり意味ないですよ。 息を入れるなら、ゆっくりした遅い、暖かい息で、ながーく、なら大丈夫、暖まります。 でも、実はそれも、あまりしなくていいことなんです。

え?でしょ。じゃ、どうするかっていうと、頭部管の、主管とのジョイント部分、この辺を中心に、 手で握って暖める。これが正解なんです。 大事なのは、管の中より、外側を暖めてあげてほしいのです。

寒い時、管の中と外の温度差が大きいと音程が不安定になります。管の中は、吹き始めれば自然に暖まりますので、 吹く前は、外側を暖める必要があるんです。

真冬のエアコンのない室内で演奏しなければいけない時、ケースから楽器を出すとキンキンに冷えてますよね。 あんまり冷えているときは、管の中にも入れた方が安心かもしれませんが、 特に外側は、1,2分、手でぎゅっと持って人肌くらいにまで暖めてあげてください。

これは木製のフルートですけど、木製は特に、寒いときにすぐ吹いちゃダメですよ。 木材には水を吸うと膨張する性質があります。内側と外側で圧力の差が生まれると、 割れることがあります。特にジョイント部分は木材が薄いので注意が必要です。

金属のフルート、これね。金属はあまりそういうことはありませんが、冷えてると音程が信じられないくらい低くなりますよね。 で、吹いているとあったまって、またしばらく吹かないと冷えてくるので、何小節も休みが続くところでは、 ずっと頭部感を手で持って冷えないようにしておいてくださいね。

では、今回はこれくらいで。また次回、お会いしましょう。
Vol.3 「音出し?ロングトーン?」

こんにちは。フルート塾3回目です。皆さん、本番前とか、普段の練習前、音出しします?しますよね?どんなことやってますか?なんかパラパラパラ〜って普通の音量で吹いている人が多いように思います。スケールをめっちゃ本気で吹いたり、ロングトーン始める人もいますね。

今回のお話しは、音出しの仕方とか、ロングトーンの仕方とか、ではありません。それは、別の回に詳しく、いつかしたいと思います。

じゃ、何よ!って感じですよね。タイトルに、「?」が付いていますね。今回のお話しは、音出し、と、ロングトーン、この「言い方」について、なんです。

まず、「音出し」ってなんですか?多分、楽器組み立てていきなり曲は吹きづらいから、なんかパラーって吹いて、体あたためるような感じですよね?これね、つまり「ウォームアップ」のことですよね。準備体操みたいな。なんで音出しって言うんだろうって、思いません?音を出すって、パラパラパラーって吹けるもんじゃないんですよね。姿勢から重心、脱力、呼吸とか、頭も身体も準備をして。しかもほんの数秒でね!満を持して吹く!と言ってもほんの数秒でね、しつこいようですけど。 音ってそうやって「作る」もので、「出す」ものじゃない気がする・・・。だから、なんか音出しって言葉に違和感があるんです。

もし、この言葉使うなら、というか、僕も使っているけど、それは、例えば今日のリハ、15時から1時間しかないから絶対遅刻しないでね!10分くらい前にはきてね。15時「音出しね!」みたいな。スタートする時のこと、そんな風に使うことはあります。これ、別に気にならないでしょ。なんか、あああ、はいいー、遅刻できんねえ。みたいな。。 パラパラパラーって吹く、いわゆる「音出し」意味ないけん気をつけてね!

ウォームアップはいいですよね。ウォームアップのいいやり方は今日は詳しくしませんが、一つだけ言うと、低音を静かに、長ーく吹くといいですよ、こんな感じ?

それから、ロングトーンね。これ、音出しよりもっと変な言葉。ロングトーンって、何?↑長い音色って、意味わかんないね笑。いや、わかりますよ、フルートでロングトーンって言ったら、モイーズ のソノリテの、あの、あれ、ですよね。半音階の・・・。

僕がこだわりすぎなんだろうけど、ロングトーンっていうと、ただ管に息を入れているだけの状態、に聴こえます。ちょっと吹奏楽部っぽすぎるかな。でもソノリテって言えば、スイッチの入り方が変わりません?ちゃんと身体作って、全神経集中して響かしているイメージ、気分のレベルも上がるでしょ。ただソノリテって、本当はやり方がとても難しいので、いわゆるみんなが使うロングトーン的なことをするなら、ソノリテより、僕は、オスティナート、またはコンティヌオって言うかな。言葉って大事ですよ。食べ物と同じで人間を作るものです。いい言葉使いましょう。

これ難しい話し?でもちょっとしちゃおう。オスティナートって日本語で言うと固執音型って意味だけど、バロック音楽ではバッソ・オスティナート basso ostinato(伊)、執拗低音って言って、パッサカリアとかフォリアなど、スペインの舞曲なんかによく見られますね。近代音楽でオスティナート技法で作られた今日で有名なのはラヴェルのボレロですよね。要は繰り返しってことで、繰り返すことで得られる感情の高まりを表現したい時に使われますね。日本の民謡でもありますよね。「ヨイヤサノ サッサ」みたいな。

ちなみにコンティヌオっていうのは知っている人も多いと思うけど、通奏低音って意味ね。バッソ・コンティヌオ (Basso continuo)の略。オスティナートと混同しないようにね。

横道に入っちゃったけど、ロングトーンって、オスティナートって意味合いを感じるから、そう言えば腑に落ちるし、音楽的にもソノリテって言うほど神経使わず、リラックスして音を長く延ばすことができるかな。ソノリテの勉強の仕方はまたいつかしたいと思いますね。

はい。と言うことで、音出しは「ウォームアップ」、ロングトーンは「オスティナート」って思うといいです。そもそも、ウォームアップなしで、例えば起き抜けに曲が吹けるようになるといいですよ!あ、これもいつか改めてお話ししたいことですね。では、また。
Vol.4 「内向き?外向き?」

こんにちは。フルート塾4回目です。今回は、頭部管と主管の合わせ位置の話しです。これをご覧になっているあなたは、どれくらいでしょうか。

頭部管と主管を合わせる位置は、音色やフィンガリング、音程などに、影響するので大事ですね。 アルテ1巻には、キーカップの中央と歌口を結ぶラインが、まっすぐになるようとあります。習い始めはそうするのが無難かもしれません。

やがて上達するにつれて、自分にあう位置が変わってきて、少し内向きにしたり、外向きにしたり、個人差が出てきます。別に規則はないので、心地よい場所、よく響く場所、であれば、どこでもいいわけです。

でもこれで悩む人、結構多いみたいです。僕も、ことあるとごとに位置を変えて、アンブシュアもセットで結構いじくってきました。で、今、どうかというと、まあまあ内向きです。理由は後で説明します。

よく、内向きはダメ、って先生に言われませんか?音量が小さいとか、音が暗いとか、音程が低いとか。。その原因を考えると、内向きがダメなんじゃなくて、「内吹き」になっている場合があります。

逆に、音に芯がないとか、雑音が多いとか、キメが粗いとか言われる人は、外向きが原因なんじゃなくて、「外吹き」になっちゃっている可能性がありませんか?

僕が今、思うことは、顎や下唇の状態、それから上唇による息の角度や方向、などが理想的な状態であれば、セットする場所が内側でも外側でも、同じような結果が得られるんじゃないかな、っていうことです。

例えば音量一つとってみても、外向きの方が大きい音がしそうですが、遠くまで美しく響く音を持つ人は、むしろ内向きにセットしている人が多いという事実があります。大事なのは身体と楽器を響かすことですよね。

たった1mm違うだけで、発音とか、倍音とか、結構変わりますので、難しいのですが、例えば仮に、番号をつけてみましょうか。真ん中を0として、1mmずつ、外向きを+1〜3、内向きを-1〜6、極端な外向きは間違いなくよくないので+3をmaxにしました。内向きは、モイーズを始めたくさんいらっしゃるので、-6くらいまであり得ると思います。モイーズ 先生が-6だとします。あと、僕が実際見たことある巨匠の位置は、グラーフ先生が-4くらい、マイゼン先生が-3くらい、トーケ・ルン・クリスチャンセン先生は-6くらいでした。国内では野口龍先生が-2くらい。石原利矩先生は、長年習っていたので色々でしたが、時に-4くらいでしたし、時に+1くらいの時もありました。

僕は今、-3くらいです。理由は、3つあるのですが、

まず、フィンガリングです。左手が丸くできるということと、右手の3点支持がしやすいということです。

次に、音色です。確かに真ん中とか外向きの方が大きな音がするのですが、それが遠鳴りしているかっていうと、そうでもなくて、-3くらいの方が、エッジとの関係が密になって、倍音の音程が正しく乗って、響きが豊かで、芯のある音色になります。自分には大きな音の感覚がなくても、遠くまで飛んでいるようです。

最後に、キーカップが前方を向くので、水滴がたまりにくい、ということです。外向きだと、楽器を自分の方に向けるので、水がたまりやすいかもしれません。

どうでしょう。参考になりましたら幸いです。僕のことをいうと、10代の頃は-4位で吹いていたんです。で、20代から30代は20年くらい、ずっと0の位置、つまり真ん中だったように思います。で45歳くらいから、今の位置になりました。

年齢とともに、変わっていいのかもしれませんが、大事なのは、コロコロしょっちゅう変えるのではなくて、一定期間、試して、自分なりの確かなデータを蓄積していくことのような気がしています。みなさんも、心地よくて、よく響く位置を研究してみてください!

では、また。
Vol.5 「うまくなる人、なれない人」

こんにちは。フルート塾5回目です。今回のお話しは、「うまくなる人、なれない人」です。どっちかと言うと、方法論ではなくて、精神論的な話しになります。

うまくなる人、なれない人との違いは何か、これは、音楽に限らず、勉強でも仕事でも、共通する話しになると思うのですが、ひとことで言うと、ガッツです!

いい言葉があるので紹介します。成功に導くのは、「知能や才能よりも、やり抜く力!」です。

「やり抜く力」を、GRITと呼ぶのですが、GRITは、次に言うそれぞれの頭文字を取っています。

まずGuts(度胸):困難なことに立ち向かうこと 次にResilience(復元力):失敗しても諦めずに続けること

そしてInitiative(自発性):自分で目標を見据えること 最後にTenacity(執念):最後までやり遂げること

これは、心理学者でペンシルバニア大学教授のアンジェラ・リー・ダックワース氏が提唱していますので説得力があります。GRITは、知能や才能を超えるんです。今回のテーマの「うまくなる人、なれない人」は、この本、「やり抜く力」を知って思いつきました。ココに紹介しておきます。

知能も才能も、どちらも全く在庫がない僕にとって、このメッセージは救いです。僕なんかでも、やっていいんだ、やり続けてみよう、って気になります。

このGRITを、ちょっと僕なりに8つのポイントに言い換えて見ます。音楽的GRITです。音楽を極めるための原動力、それはまずは1.「情熱」だと思います。そして2.「行動力」、恥を跳ね返す3.「ガッツ(度胸)」、挫折から再起する4.「粘り強さ」、心折れない5.「忍耐力」。自分の問題を見つけられる6.「想像力」。そして、心底「やりたい」と求める7.「自発性」ですね。加えてもう一つ、8.「足るを知る」って老子の言葉、わかりますか。自分を戒めることも大事です。

これらをバランスよく持ち合わせている人は、必ずうまくなる人だと思います。どれか欠けているとか、どれもあるけどバランスが悪い人は、うまくなれない人かもしれませんので、鍛えてください。もちろん、「知能や才能」がある人は、人よりアドバンテージを与えられているのだから、音楽的GRITがあれば最強です!

音楽はとても深い芸術なので、極めるには、とても長い時間、勉強する必要があります。ピアノやヴァイオリン同様、幼少期に体を作って、10代で感覚と技術は完成形に近くなっておくのが理想です。なぜかと言うと、最終的に重要な音楽表現には、人間性の豊かさが問われるわけで、それを養う20代30代で、技術面で悩んでいる時間は少ない方がいいからです。音楽はアスリートと同じで、才能がモノを言う世界です。でも、「GRITは才能を超えることができる」、とすれば、くじけないで頑張ることができます。音楽は茨の道ですが、でも最高に楽しく、贅沢な遊びでもあります。今日も頑張りましょう。では、また
Vol.6 「ためれんって有効?」

こんにちは。フルート塾6回目です。今回のお話し、「溜連(ためれん)って有効?」ですが、「溜連」って何でしょう?どうやら、練習できない日が続く時に、ガーと溜めて練習しておくことらしいです。これが有効か無効かってことですが、当然、「無効です」笑。どうして溜連って発想になるのか、ちょっと検証したくなったのでお話しします。

例えば、3泊4日の旅行で練習できないから溜連しなきゃ!って感じでしょうか。うん、旅行は音楽のためにもした方がいいですから行ってください。で、溜連、うん、わかります。しないよりいいのでぜひしてください。ただ、3日分を1日でやってやろうと思ってもできるものではありません。譜読だけなら、単純に3倍時間かければそれだけ3倍読めるかもしれませんが、それは練習って感じじゃないですよね。

音楽で肝心なのは、まず音色、それから表現です。音色は5年、10年単位で作っていくものです。3日分音色をよくするとか、ありえないですよね。似た例で、「来月の発表会までにいい音にしたい!」と思うのは大事ですが、まず1ヶ月では変わらないのでそんな事は考えないでいいです。「いい音にしたい!」って言うのも曖昧で、ただいい音なだけでは表現になりませんしね。仮に溜連していい音になっても、3日も吹かなかったら唇やお腹の筋肉は結構落ちて良くなるどころか後退することもあります。風邪で寝込んで3,4日ぶりに吹いたのに、なんかいい、みたいなとき、それは、ただ久しぶりで体がリラックスしてるのと、耳が新鮮に音をキャッチしているだけです。

表現はどうでしょう。3日分、表現しておこう!とか、無理かなあ〜って気がします。

では、指とか舌はどうでしょうか。指や舌のテクニックは筋肉の運動性はもちろんですが、それは主に、脳の働きと体のバランスが司ります。脳の精度を日々進化させ、読譜の質を高めることが、すべてのテクニックの根幹です。 3日分溜めて練習しても、筋肉はすぐ落ちますので劣化はまぬがれません。特に舌はちょっとサボるとすぐ鈍りますよね。

でも、脳の働きは、維持されるかもしれません。溜連するなら、と言うか、いつもの練習もですが、「より良い脳の働きを促す」練習をするべきです。そうすれば、溜連したことがそのまま3日後にアウトプットできるかもしれません。

では、「より良い脳の働きを促す練習内容」とはどんな練習でしょう。それは、根本にはソルフェージュがあると思います。自分のソルフェージュ能力をフル活用した中での、極めて集中した練習です。決して、普段の3倍の時間をかければよいわけではありません。練習時間が3倍もあると思うと、意外とダラダラしちゃうもんです。または無駄に反復練習をたくさんしてしまうとか。だいたいそう言うときは、脳を使わずに、ただガムシャラに力んでやっちゃっている場合が多いので、泥沼に入り込むこともあります。この話しは、詳しくいつかしたいと思います。できるだけ、溜連なんてしなくてよいように、毎日充実した練習を継続しましょう。ではまた。
Vol.7 「動く?動かない?」

こんにちは。フルート塾7回目です。この動画のトピックは今のところ、技術的なことはまだほとんど取り上げていないのですが、今後少しずつ、具体的な技術の話しになっていくと思います。今回は少しだけ方法論的なトピックです。「動く?動かない?」と言うテーマですが、演奏中、たくさん動く人と、ほとんど動かない人といますよね。これについてです。先に僕の考えを言わせていただくと、どっちかと言えば、動かない方を、よしとします。

それぞれの傾向を考えてみますと、動く人は、プラスの意味では、「歌心が豊か」なので、感情表現が体の動きになるんですね。マイナスの意味では、「音作りやテクニックを体を動かすことで補っている」んだと思います。動かない人は、プラスの意味では、「体の軸が安定しているので音やテクニックが安定している。」マイナスの意味では、「感情の波が少なく落ち着いているので、音楽表現も淡白」ですね。

つまり、両者で逆の傾向があると思うんです。これは、人柄や性格によるところも大きいですよね。足して2で割るのがいいのですが、これがなかなか難しいものです。

で、どうして僕は動かない方をよしとするかと言うと、僕の、考え方の基本に「一声二節」という言葉があります。これは、石原利矩先生から教わった言葉なのですが、まず声(つまり音色)が美しいこと、その上で節(つまり歌)がある、と言う意味です。

僕は若い頃、体を大きく動かしていて、音色は不安定でした。表現は独善的で、パッションに任せていた様に思います。音が美しくなければ、表現は独りよがりの無意味なものになってしまいますよね。。いま、49歳ですが、いまだに自分のこの傾向と闘っています。でもこれって意外と陥りやすいことで、アマチュアの方に多くみられます。それを治すことはすごく時間のかかることです。歌いたい、表現したいっていう思いが強いのはいいことなのですが、その分、体をコントロールすることに意識を向けにくくなってしまうんです。指が難しいところで体を動かして補うことは、脱力ができていない、体幹がブレている証拠でもあります。脱力や体幹の話しは重要なので、いつかあらためてしたいと思います。

逆に、動かない人にとっては、カンタービレやエスプレシーヴォで歌いきれない、パッションが足りないことが問題となります。でも音色が綺麗であれば、とりあえず聴いてもらえるのではないかと思います。実は、プロのフルーティストにはこちらの傾向の人の方が多いかもしれません。厄介なのは、表現力、訴求力というのは、努力や時間ではなかなか得られない、ということです。なので性格的に落ち着いている人、淡白な人は、音色の美しさと、音楽的解釈の趣味の良さや品格の高さを音楽表現に活かしていくことが大事だと思います。強い個性や独創性はどうしても性格上、難しいのかもしれません。何れにしても、足して2で割ることはなかなかハードルが高いです。

それでもこのテーマをまとめようとしますが、動きが大きくても、綺麗な音の人はいます。でも傾向としてはやはり軸の安定しない、響きに芯のない音の人が多い様です。体の軸を安定させて重心を低く保ち、脱力して、体幹や気道を確保しようと思うと、自然と美しいフォームになって、あまり動かなくなるものです。フルートに限らず、ピアニストやヴァイオリニストも、巨匠は微動だにしないって言うくらい動きの少ない方が多いですよね。テクニックは脳が管理していると言うお話しを前回しましたが、体の無駄な動きは、脳の働き、つまり楽譜から情報を得て、筋肉に仕事をさせるという、ニューロンとシナプスの働きを邪魔します。

音楽表現は、アパッショナータであっても、体を大きく動かさなくても、できると思うんです。。でも音色やテクニックは、動きすぎると乱れます。と言うか、音色やテクニックを磨く過程で、身体の使い方を理解していきますよね。そうすると、次第に、無駄な動きがなくなってくるはずなんです。もちろん、音楽表現に伴った自然な動きは、多少あると思うのですが、どんなに激しい感情表現の時でも、音色やテクニックのために軸がブレずにいられるためには、フォームの安定が、まず不可欠だと思います。自分の演奏姿をもう一度見直してみると、よい発見があるかもしれません。ではまた。
Vol.8 「調子いい?悪い?」

こんにちは。フルート塾8回目です。みなさん、フルートの調子はいかがですか?今日の話題は、「調子いい?悪い?」です。好不調の波ですね。ほとんどの方、あるのではないかと思います。でも、このトピックで何をお伝えしたいかっていうと、「好不調はないぞ!」です。。「また、厳しいことばかり言わんどって~」って、自分でも思うのですが、本当です。

詳しくお話ししますね。僕も、好不調の波、ありますけど、波が大きいか、小さいか、というお話しなんです。学生の頃、すごく波、ありました。2,3ヶ月スランプの時もありました。もう毎日が悶々として、自暴自棄になるくらい、いっそ吹くのをしばらく休んだほうがいいくらいなのに、悔しいからなんとかしてやろうとムキになって練習するんです。完全な迷走状態ですね。

で、30年経った今、それなりにフルートの吹き方がわかってきて思うのは、「調子の波の振幅が穏やかになっていく」、ということです。未熟なときは、期間が長く、振り幅が激しい。例えばさっきの僕の話しの様に、数ヶ月、めっちゃ酷い状態。それがだんだん、1ヶ月、半月、一週間と期間が短くなってきて、振り幅も迷走レベルから、凹みレベル、残念レベル、やがて許容レベルという感じにまで落ち着いてきます。そして、期間が1日くらいになって、振り幅も「なんかヘンだな?」程度になり、そのうち、1日の中の時間単位、分単位にまでなって、あれ?、さっきはもうちょっとよかったのになあ、って感じになります。その辺までくると、振り幅も微細なレベルで、他人が聴いても気付かないと思います。原因もはっきりしていて、自分で 解決できるでしょう。プロでちゃんとした人は、たいてい毎日朝から絶好調なはずです。 なので、あまり安易に「今日、調子悪いんだよねえ」って言わない方がいいかもしれません。みんな自分の状態に一番関心がありますので、他者の状態に、自分が思うほど気がつくものではありません。ただ、口内炎ができちゃったとか、親不知抜歯したばかり、とか、誰が聴いても心配されるくらい酷い時もありますけど。。。

まとめますと、訓練によって身体が開発されていくと、調子いいも悪いもほとんどなくなって、どっからでもかかってこい!という気持ちになります。技術的にまだできないところがたくさんあるっていうだけで、「不調」いう概念がなくなります。なので調子が悪い日が多い、っていうことは、まだまだ「伸びしろがある」ってことです。ただ、年に1日,2日くらい、原因がわからないけどなんか音が悪いなあ、っていう日があります。翌日には元に戻るので、単に疲れや寝不足、ストレスなのかわかりません。そういう日に本番が重なると、なかなかハードボイルドな1日になります。はい。ということで、毎日朝から絶好調になる様、音磨き、頑張りましょう!ではまた。
Vol.9 「鳴る?響く?」

こんにちは。フルート塾9回目です。今回はまた、言葉にこだわってみます。「鳴る?響く?」どちらの言葉をよく使いますか?ちょっと想像してみて欲しいんですけど、微妙にニュアンスが違うと思いませんか?僕は、もうしばらく、「鳴る」と言う言葉を使っていない気がします。

よく楽器の試奏会で、「これはよく鳴るね~」と言っている人を見かけますが、「鳴る」と言うと、インターフォンやスマホの着信音みたいで、ボタンを押して簡単に音が出ている感じがします。押したら鳴る、みたいに簡単に音の出るフルート、欲しいですか?もしかしたら、そう言う吹きやすいフルート、欲しいって思う人もいるかもしれませんね。いや、実際にはそんな簡単に吹けるわけではないのですが、本当に美しい音色のフルートほど、簡単には吹けません。僕は初代ルイロットや初代A.R.ハンミッヒの木製や、オールドヘインズなどを持っていますが、そういったオールドフルートを吹くとわかりますが、とてもコントロールが難しいです。でも、楽器が正しい奏法を教えてくれて、鍛えられます。そうすると、楽器の持つ「得も言われぬ」素晴らしい音色に出会うことができます。これらのオールドフルートは、鳴るか鳴らないか、と言えば、正直、鳴りません。でも、品格のある音色でとてもよく響くんです。

鳴ると、響く、は、根本的に違うと思うんです。「鳴る」楽器は、僕にとってはちょっとうるさいと言うか、耳が痛い。「響く」楽器は、太くて心地いい。響く楽器を、響かせられる奏法で演奏したいものです。このあたりのお話しはまた別の機会にしますね。しつこいようですが、楽器は「鳴る」ではなく、「響く」ことが大事です。

音楽を表現するにふさわしい「楽音」は、鳴らすものではないと感じます。音は、まず体を響かせ、楽器を響かせ、空気を響かせるもので、それが聴く人に届く。まさに、心と心が響きあうのだと思います。

言葉は人を作りますので、「鳴る」を「響く」に言い換えてみると、自分の体から生み出される音が、音楽によりふさわしい楽音に生まれ変わるかもしれません。では、また次回も、こだわりにお付き合いいただければと思います。
Vol.10 「鼻呼吸?口呼吸?」

こんにちは。フルート塾10回目です。始める前にちょっとだけお話しなのですが、現在のような、新型コロナウイルスによる国難の中、僕らのような音楽家は社会に役立つことが何もなくて、おこもり生活をするしかないのですが、それがあってこの動画のシリーズを始めようと思い、10回目となります。ふざけたサムネイルで楽しんでもらえたり、フルートのトピックを共有できたらなと思って始めました。お弟子さんとも、緊急事態宣言後はオンラインレッスンだけなので、この動画でモチヴェーションを保ってもらえたらいいなと思います。おこもり生活の今はほぼ毎日更新できていますが、コロナが終息して日常が戻ったら、更新が滞るかもしれません。

もうしばらく今の雑学っぽいトピックを続けます。まずは音楽への意識、心構えを少しでもレベルアップしておきましょう!という老婆心からです。

さて、今日は、「鼻呼吸?口呼吸?」というお題目です。結論からいうと、フルートにオススメは、口呼吸です。ただし、理想は、使い分けることです。

再度、断っておきますが、この動画シリーズで言っていることは、あくまで僕の場合です。誰かがいいと言っているメソッドは、その人に合っているだけで、真似する必要は全くありません。害になることさえあるでしょう。でも、長年指導してきて思うのは、自分のやり方が見つからず、停滞している人がすごく多いので、そういう人には、ある程度、誰かが成功したやり方を真似する事で、先に進むきっかけになる、という事実です。

さ、本題に戻ります。寝ているとき、鼻呼吸が基本です。口呼吸は喉の乾燥やイビキになって不健康です。フルートの場合、どっちにしても、呼気、つまり吐く時は当然、口です。でも吸う時はどうでしょうか。鼻で吸うのが理想という人がいます。それも確かですが、上級者向け、というか、かなり上手い人用かもしれませんので、とりあえず、口を開けて息を吸いましょう。その方がたくさん吸えますし、理想的な腹式呼吸がしやすいと思います。あとで話しますが、鼻からも少し息が入るミックス呼吸もあります。

口で吸うのが基本でいいと思うのですが、例外があります。例えば、唾液が溜まってきて飲み込みたいのだけど、長く休める休符がないとき、または、唇が乾いて舌で舐めて潤したいとき、ありませんか?そんな時、鼻から吸えば、短い時間で唾液を飲み込んだり、唇を舐めたり、できます。それから、レントやアダージョの音楽で、フレーズ開始前の呼吸で、吸う時間を少し長く使うことありますよね。通常は、開始する音の一拍前が吸う時ですが、場合によっては深く長く準備する時もあると思います。そんな時、口を開けて吸うと、なんかわざとらしいというか、音楽的でなくなります。鼻だと、落ち着いた深い吸気が可能で、ゆったりとしたフレーズが始まる空気感をうまく作れます。あと、もちろん循環呼吸も鼻からですね。これはまた改めてお話しします。

僕のことを言うと、3種類使い分けます。1.「口で吸う」2.「鼻で吸う」3.もう一つはミックスなのですが、「口を開けて、口からも鼻からも息が入る」どこでどう使うかは、説明が難しくて、誤解を招くといけないので割愛します。さっき吹きながら観察したのですが、ほとんど無意識に、直感的に使い分けている感じです。

また、先ほど睡眠時は鼻呼吸と言いましたが、寝ている時にするくらいですから、鼻呼吸の方が、リラックスできる呼吸法だと思うんです。と考えると、鼻呼吸時の口腔内の状態は、理想的なはずです。でも、みなさん、イメージしてください。舌が口蓋に付いていますよね。このままではフルートに息を入れられません。よく、口の中は広く開けてと言われますが、この状態はどっちかと言うと、狭いですよね。

でも、この状態が確かにリラックスできているので、口の中を広く開けようとして、舌をあまり奥にしまおうとすると、余計に舌根に力みが生じることになります。鼻呼吸時の口腔内の状態を保ちながら、口を開けて吸う時も、舌に無理な力が入らないように吸いましょう。そして吐くときも、軟口蓋や鼻腔の開放感をそのままで、肩や首、背中を脱力して、あたかも鼻から息を吸っているかのように吐きましょう。そんなイメージだと、深い腹式呼吸ができるようになります。

まとめますと、フルートを吹く時、口呼吸ではありますが、鼻呼吸の感覚を取り入れると、いいと思います。ではまた。
Vol.11 「リッププレートどこにあてる?」

こんにちは。フルート塾11回目です。さて、今回も、なかなか壮大な、答えがないと言っていいお題目です。「リッププレートどこにあてる?」ですが、どこなんでしょう?「人それぞれ」とか、「だいたいでいい」と言うアンサーが、一番妥当だとは思いますし、多分それが正解なのでしょう。でも、それでは悩みは解決しませんよね。検証は難しいのを承知でちょっとやってみます。

多くの人が「当て方がわからない」と悩んだことあると思います。まず、横の位置はシンプルですよね。アパチュアからの息がライザーに当たる場所でいいわけです。

問題は縦の位置ですね。大雑把に言うと、唄口手前のエッジを感じる場所が、「上がいいか、下がいいか」でしょうか。上というと、下唇の真ん中くらい。下というと、下唇の一番下ですよね。両方吹いてみますね。

傾向としては、上に当てると、華やかな大きな音ですが、音色の変化に乏しい気がします。下に当てると、地味で、大きな音ではないですが、音色の変化がフレキシブルです。僕ももう悩んで迷って今に至りますが、未だによくわかりません。が、「内向き、外向き」と同様、規則はないし、好みでいいのでしょう。僕は、というと、その時々なのですが、最近は下の方が多いです。思うことは、いい音のためのアンブシュアを用意すると、上でも下でもなく、ある程度の場所にいつも落ち着く、という印象があります。

次に、当ててから、アンブシュアを準備する際に、大事なことが4つほど思い当たりますのでお話しします。

まず一つ目、「どこに当てるにしても、アンブシュアを作りすぎないこと。」当ててから唇をグニョグニョ動かす人がたまにいます。気持ちはわかりますが、その動作は声門を締める可能性があります。下唇が唄口を覆う度合いを、柔軟に変化できるように、両唇は自然な状態、力みのない状態であることが大事です。

二つ目として、力みのない状態と言いましても、小さいアパチュアを作るために、どこかに少しテンションがかかるのですが、それは唇というより、表情筋に必要だと思います。顎や舌からは無駄な力みは取りましょう。

三つ目に、アパチュアは唇の少し内部の湿ったところにできた方が雑音が少ないと思います。つまり若干内部をせり出すことになります。そうすると、歯と歯の間に空間があり、歯と唇の間にも空間ができる様なイメージでしょうか。とは言ってもめくる必要はないです。それは逆に力みになります。

四つ目に、リッププレートと顎は、隙間なく密着していた方がいいと思います。ただ、密着させるとは言っても、押し付けるのではなく、落ちるくらいの優しい力で、寄り添うように、包みこむように安定させてください。小さい子供への最初のレッスンでは、ここは枕だと思って、おやすみなさい、という気持ちで当ててね、と言ったりします。あと、吹きながら首が動かせる程度がいいです。(こんな感じで)それには、指や手首、腕の脱力も必要です。

思いつくのはそんな感じですが、響きに関してまず大事なのは、美しい息を作るためのボディバランスです。アンブシュアや当て方は、「自然である」ことを念頭に、あまり厳格にしない方がいいかもしれません。ではまた次回の動画で!
Vol.12 「鏡で唇、見らんで〜!」

こんにちは。フルート塾12回目です。今日のお題目は、「鏡で唇、見らんで!」です。前回お話ししましたが、リッププレートをどこに当てるか、や、アンブシュアの形や、アパチュアの大きさ、それから唄口のふさがり程度など、気になるところって、だいたい口元に集中していて、鏡に映して目で見えるところですよね。もちろん、鏡を見て確認したり、試行錯誤するのは、必要だと思います。でも、「見んといて〜」と言いたいのはなぜか、というお話しです。

前回、「響きに関してまず大事なのは、美しい息を作るためのボディバランスだ」と言いました。上下のバランスです。

下半身はどうなっているかというと、丹田に重心があり、腹横筋や腹斜筋などのインナーマッスルで横隔膜を支えてコントロールします。上半身はどうなっているかというと、肋骨や胸郭、肩甲骨が広がり、気道が確保された上で、首、肩、背中が脱力されます。そして顎が楽に落ちて、鼻腔や軟口蓋を開放するイメージで、声門をニュートラルな状態に保ちます。このバランス、多分、声楽も同じだと思うのですが、これがまずできないことには、どんなに唇を作っても音は響きません。

鏡で唇を観察している時って、ちょっと前かがみになりませんか?姿勢を崩して唇を作っても意味がありません。もし鏡を見るなら、全身が映る大きな姿見がオススメです。ウチの鏡はこれです。立ち姿が美しいとオーラを感じると思います。それをチェックするんです。顔付きがおおらかで、表情筋が働き、アンブシュアもフレキシブルで、いかにも頭蓋骨に響いている、というオーラを作るために鏡を使いましょう。

でも鏡よりも、再度言いますが、唇などの目で見えるところより、目で見えない体の内部に、上手くなる秘密があると思います。たまにはいいけど、あんまりさ、鏡で唇、見らんで!ではまた!
Vol.13 [呼吸のお話し]「フリーダイビングといっしょ?」

こんにちは。フルート塾13回目です。今回のテーマ、「フリーダイビングといっしょ?」です。これは呼吸に関するトピックです。

フリーダイビングとは、呼吸するための器材を使わない、いわゆる素潜りですね。映画『グランブルー』でご存知かもしれませんが、信じられないくらい深い海へ、身体一つで潜る競技です。世界記録では、7分間ものあいだ水中で息を止めて、水深126mまで潜る、超人の心と技の競技です。水深100mというと、身体に受ける水圧は11気圧にも達しますので、内臓はつぶれて、あばら骨は浮きあがり、鼓膜に大きな圧力がかかります。水中で酸素を使い果たせば「ブラックアウト」と言って、失神状態になりますし、肺が壊れて命を落とすこともあります。

この競技を行うアスリートの訓練は過酷です。約12気圧もの水圧から、肺などの器官をどうやって守るのか。その秘密の一つに横隔膜があります。ヨガなどのトレーニングも取り入れて、柔らかな横隔膜をつくる様です。ヨガは気持ちをコントロールする呼吸法でもあって、リラックスして心拍を落としやすくしたり、インナーマッスルが強化されます。体のしなやかさや、肺と胸郭の柔軟性を育てます。

フリーダイビングの競技選手の訓練を見た時に、これはフルートの訓練と似ていると思いました。その方がおっしゃっていたことで、なお面白いことは、こういった横隔膜の機能は、すべて人間が元々持っていて、放っておけば退化していく能力なのですが、約10年間のトレーニングによってこの能力を引き出し、パフォーマンスを上げることができた。でも、こうした体を手に入れれば万全かと言えば、そうではない。カギを握るのは「脳」であり、「フリーダイビングは判断力のスポーツ」だと言い切っているんですね。音楽の演奏と同じだと思いませんか?音楽で命を落とすことはないですけど・・・。

深く吸って、ゆっくり吐く。例えば中音のHを、響きのあるピアニッシモで、メトロノーム72のテンポで、4/4拍子、15小節続きますか?約50秒になります。僕は、このための少し特殊な訓練を、はじめて、10年位経った頃から、楽にできるようになりました。息を長くすることが目的というよりも、あらゆる技術を柔軟にコントロールすることができる様になります。お弟子さんの多くは、はじめ2小節位でいっぱいいっぱいですが、やがて10小節くらいまではできる様になりますので、元々の肺活量は関係ありません。誰でも訓練によって、活発な肺機能としなやかな横隔膜、そして強靭なインナーマッスル、ひいては、完璧な体幹と極上のアンブシュアを手に入れることができると思います。少なくとも僕は、そう思って、極めていけると信じて、この年齢になっても訓練しています。さあ、みなさんも、今日もしっかりトレーニングしましょう。
Vol.14 [複式呼吸と支え 1]「ガリバーと綱引き?」

こんにちは。フルート塾14回目です。さて、いよいよこれから、少し具体的なテクニックのお話しを、方法論的に進めて参ります。とは言っても、個人レッスンの様に、個々に異なる個性をフォローするものではないので、あくまで一般論、相対的なロジックで展開していくことをお含みおきください。とは言っても、これまで、当塾のトピックをご視聴された方は、意識レベルがヴァージョンアップしていると思いますので、今回以降お話しすることについて、スーと入っていくのでは、と期待しています。もしも、13回までのコンテンツをまだご覧になっていない方は、今後のコンテンツに入る前に見ておいてくださいね。

では始めます。今回は、腹式呼吸についてお伝えします。お題目は「ガリバーと綱引き」です。

まず「吸気」からです。息は、肺に入りますね。肺の容量を増やすためには、横隔膜を下げることが必要です。なので吹く前の動作として、たくさん息を吸おうと思うより、「横隔膜を目一杯下げる」という意識により、肺にたくさんの息を取り込むことができると思います。そしてそのためには、インナーマッスルの強化が必要になります。またインナーマッスルを十分に働かせるためには、上半身の脱力が必要です。力んでいては下半身が言うことを聞きません。

次に「支え」です。横隔膜が目一杯下がったら、その場所をしばらくキープします。試しに息を止めて見ましょう。腰に力が集まって、「ストップ!」って言われている感じですよね?そのエネルギーの感覚を覚えてください。それが「支え」の正体です。もう一つ観察してみてください。息を止めて支えをキープしながら、肩の力を抜くと、ぽかあんと喉が楽になりませんか?左右の声帯の間の隙間を声門といいますが、そこにストレスがない状態をイメージしましょう。このバランスを覚えておいてください。

さて、いよいよ「呼気」です。下がった横隔膜が、元の位置に戻ることで呼気になるのは当然ですよね。でも、溜息を吐くように一気に戻ってしまったら、息は一瞬でなくなってしまうし、腑抜けな音にしかなりませんよね。そこで先ほどの支えの出番です。このエネルギーを保ったまま、横隔膜をむしろさらに下へ下げるイメージで、インナーマッスルを使ってみてください。ゆっくり息が流れ始めましたね。そして横隔膜は、ゆっくりゆっくり元の位置へ上がろうとするはずです。横隔膜が、自然に戻ろうとする力をフリーにさせる程度に支えながら「ゆっくり戻す」のがコントロールの要です。この支えは、肺の中の息を全て使い切るまで保ってください。そして次の吸気に入るときは、先ほどど同じように、脱力して、横隔膜を目一杯下げます。

この動作が腹式呼吸の基本形です。「ガリバーと綱引き」は、この感覚のことです。5歳の子と綱引きをしても、あまり抵抗感を感じませんよね。相手が大男のガリバーなら、ぐっと腰に力が集まる感じしませんか?パワーの釣り合いが取れて、全体として整い、安定している状態を例えています。

ただし、音色を美しく、よく響すためには、別の要素が必要です。でもそれは、この呼吸法の中で見出していけると思いますので、腹式呼吸の本質をマスターすることは、基本中の基本と言えます。ちゃんと習得するまで時間がかかりますが、土台となる部分ですので、大事にしましょう。ではまた!
Vol.15 [複式呼吸と支え 2]「お尻の穴は締めとってね?」

こんにちは。フルート塾15回目です。「お尻の穴は締めとってね!」今日は前回に引き続き、腹式呼吸と支えの話しです。僕が10代の頃、声楽の先生にこの言葉を言われて、当時はイマイチしっくりこなかったのですが、今になって、「お尻の穴を締める」という状態、腑に落ちます。当時、その先生は「変な言い方だけど・・・」と、ちょっと言いにくそうに、恥ずかしそうに教えてくれましたが、僕も今、レッスンでお弟子さんに、このことを教える時はちょっと躊躇します。でも大事なことなので、この動画でも取り上げることにしました。「お尻の穴を締める」とは、「骨盤底筋を使う」ということです。

骨盤底筋(画像)は、図解の様に、股間にある小さな筋肉たちの集団で、骨盤内の臓器を支え、排泄をコントロールしています。つまり、内臓を下からしっかり支え、体幹を安定させる為に「締める」ことと、尿や便、それから女性の場合は経血を出すために「緩ませる」こと、その相反する仕事をしているので、弱まると、尿漏れなどが引き起こります。

骨盤底筋が強ければ、健康で、ボディラインも美しくなる上に、フルートを豊かに響かすことも可能になります。なぜなら、前回のトピックでお話しした横隔膜の「支え」は、まさにこの骨盤底筋をはじめとしたインナーマッスルを強化することから作られるからです。

フルートを吹いている間、トイレを我慢するイメージでキュッとお尻の穴をお腹の中に入れ込む感覚を持ってみてください。くれぐれも肩に力が入らないように、です!お尻に意識がいくことで、肩を脱力しやすくなることを感じて欲しいです。

さて、骨盤底筋の次は、腹横筋です。(画像)腹横筋は腹斜筋の内層にあります。腹横筋は、腹腔内圧を高める点に重要な役割を担っていますので、音域による支えの高さ移動や、跳躍や、スタッカートなどで横隔膜をコントロールする際に、ダイレクトに仕事をしてくれます。

フルートを吹く時にしっかり意識すれば強化できるものですが、どの筋肉かよくわからない方は、ムキムキマッチョになりたい人がするような、ロッキングプランクというトレーニングをちょっとやってみると、腹横筋の存在をイメージして体幹を鍛えることもできます。(画像)

ということで、フルートを吹いている時、骨盤底筋と腹横筋を使いましょう!では最後に、音にどんな風に違いが現れるのか、インナーマッスルで、支えのない音と、支えた音、両方やってみます。(吹く)いかがでしょう。 動画で伝わったかどうかわかりませんが、参考になれば嬉しいです。

人間の体の重心は「丹田」にあると言われます。(画像)腰の力が集中するところが「丹田」と考えると、骨盤底筋を意識することは丹田とイコールかもしれません。「お尻の穴を締める」と言いましたが、締めすぎには注意してください。過ぎたるは、なお及ばざるが如し。という通りですね。骨盤底筋も丹田も、「固めて作って」→「柔らかく使う」ことで、軸が安定し、心が安定します。ではまた!
Vol.16 [脱力 1]「レバーを横に?それともボート漕ぎ?」

こんにちは。フルート塾16回目です。僕の中で、フルートの音磨きに際する大きな柱は4つありまして、まず1番目には、前回までお話しした「腹式呼吸と支え」です。2番目は、今回と次回にお話しする「脱力」です。。3番目に「響き」が挙げられます。4番目に「アンブシュア」がありますが、アンブシュアは、最終的なものと感じています。それぞれにおいて、僕がこれまで体得してきたコツというか、アプローチポイントがありますので、今後、順をおって取り上げていきます。

今回のお題目は「レバーを横に?それともボート漕ぎ?」です。脱力の話しです。みなさん、フルートを構える時、どうやって唇まで持ってきますか?よく言われるのが、自分から迎えにいかないことですよね。これはいかにも姿勢が崩れるからダメです。自分の体はそのままで、下から持ってくるか、前から持ってくるか、だと思います。「どっちでもよかろうもん!」と言わないでください。意外と影響あるものです。

僕はずっと何十年もの間、前から持ってきていました。「ガシッ」って感じですね。でもここ最近下からになっています。「ピョーン」みたいな・・・。プロ野球選手も千差万別ですよね。打者も投手も、まず構える動作、モノマネされるくらい特徴が分かれます。人それぞれ、自分のスタイルを見出し、確立するものだと思います。

下から、「ピョーン」みたいな・・・、これ、ランパルの真似で始めたら、思いのほか、よかったので続けています。僕は毎年、寒い時期になると、咳喘息になるのですが、その時にいただく吸引薬、これなんですけど、こうやってレバーを右へ引いてから口をつけて吸うのですが、このレバーを引く動作が、フルートを下から持っていく動作に似ています。すごくリラックスして自然な状態で構えることができます。お医者さんから聞いた話しですが、「ホー」と言いながら息を吐いて、その口の形のまま吸います。この「ホー」の発声が、一番のどが開くらしいです。フルートの呼吸時のイメージトレーニングにいいと思いませんか? 下から「ピョーン」と「レバーを横に」引いて構える時は、脱力はできているので、呼吸時に同時に胸郭の拡張(肋骨の上昇)を合わせていく感じになります。

前から「ガシッ」ってくるのも、いいと思います。「ボート漕ぎ」みたいでしょ。この場合、構える前にすでに胸郭が少し広がっていますよね。この溝うちの部分を広げることは大事で、響きを準備します。それために肋骨を上昇させるのでテンションが必要になります。拡張ができている分、呼吸時に、脱力の塩梅を合わせていく感じになります。

脱力が先か、拡張が先か、どちらでもいいと思いますが、緊張と緩和のバランスは、音を出す前から始まっていて、体の準備はそれほど大事、ということだと思います。ではまた。
Vol.17 [脱力 2]「壁にもたれてからくさ、背比べばしてみらんね!」

こんにちは。フルート塾17回目です。今回のお題目は「壁にもたれてからくさ、背比べばしてみらんね!」です。脱力の話し、その2です。ピアニストもヴァイオリニストも、野球選手もゴルファーも、芸術系とスポーツ系は、脱力が肝(キモ)です。アマチュアとプロの違いは色々あると思うのですが、テクニックやパワーの源泉である脱力のステージが、かなり違うのではないかと思います。

脱力は音の響きだけでなく、高度なテクニックにつながる根幹部分ですが、なかなかその感覚を得るのは難しいものです。フルートの場合、力んだ状態の一番わかりやすい例として、学校の吹奏楽部など、集団で活動している方達に顕著です。大きな要因として、周りの音量に負けない様に吹き過ぎてしまうことと、能力を超えたあまりにも難しい曲の本番があるので、長時間、体に無理をしているからです。力んで吹いてしまうと、音色は固く締まって、ディナミクレンジがほぼ無になり、fもpも苦し紛れになります。吹き過ぎなので音程は高くなって、頭部管を驚くほどたくさん抜くことになり、余計に音程のバランスは崩れます。力むということは、体もブンブン振り回すことにもなるので、表現の履き違えも引き起こります。

脱力を覚えることには、個人差がありますが、ほとんどの人が苦労するものです。意識が体のバランスに向かい、フォームと呼吸をコントロールして、内省する習慣をつけることは容易ではありません。そして体得していく過程には何段階ものステージがあって、一生向かい合う課題でもあります。僕も昔、どの状態が脱力したことになるのか、チンプンカンプンでした。今でも道半ばです。

まずは三合目、富士山で言えばミニ登山をしましょう。そこから徐々に五合目まで目指してほしいのですが、五合目から先は、長い道のりです。今日は、そもそも脱力の感覚がわからない人のために、ちょっとしたヒントをお伝えします。

楽器を持たず、次の3つの体操を一通りやって見て、自分に合うものを時々確認のためにしてみてください。

1.「ゾンビ」体を曲げてかがんで、腕をダラリと下げる。腕を回す。その後ゆっくり腰を起こす。腕を前や横に上げて、脱力。その後ガシッ、またはピョーン。

2.「跪座(キザ)」足の指を立てた状態で正座をする。踵にお尻を載せます。腕を前や横に上げて、脱力。その後ガシッ、またはピョーン。

3.「壁にもたれる」足を少し前へ出し、肩だけ壁につける。腕を横に上げて、脱力。その後ガシッ、またはピョーン。

次に楽器を持って、先ほどの2と3をしながら、音を出してみる。普段と音の感じと違いが出るかどうか・・・

最後に、3番目の姿勢で音を出しながら、腰を上げてみます。そして少しずつ胸郭を拡張していきましょう。背比べをしているように顎は引いて首は高く保つ。背中はスッとまっすぐ。丹田を意識してください。

「壁にもたれてからくさ、背比べばしてみらんね!」と言うのは、この感覚のことです。壁にもたれた時に楽に体に響いた感覚を、常にイメージすると、体に染み渡ってくると思います。良い姿勢は脱力を伴います。脱力はオーラになり、音色とテクニックを飛躍させますので、どうにかして、手に入れたいものです。では、また。

Vol.18 [響き 1]「孔雀が羽根ば広げとうよ!」

こんにちは。フルート塾18回目です。今回のお題目は「孔雀が羽根ば広げとうよ!」です。腹式呼吸のトピックでお伝えした様に、深い吸気の際には肋骨が上昇して胸郭が拡張します。この動作が音をより響かせるたの共鳴部を形成します。声楽家が、自分の体が楽器である様に、フルーティストも、特にエアリードであるフルートは、自分の体を楽器の一部にすることは必然的なことです。ピアノの響板には、エゾマツやルーマニアンスプルースなどの、木目の細かい材が良いと言われますし、ヴァイオリンやギターも、響板は心臓部です。フルートの場合は、胸郭から声門を経て頭蓋骨までの上半身全てが、響板に相当するのではないかと思います。

響板は、振動を増幅するわけですから、部材の品質や正確な駒の圧と、アーチ形の部分が、音に関して決定的な役割となります。響板の振動は音として空気中へ放出されますが、もちろん、奏者のタッチやボウイング、フルートで言えばアンブシュアがそこに介在するのは言うまでもありません。横隔膜が深く、丹田の支えが保たれ、脱力が得られたら、やはり次に何を、となった場合に、この響板に当たる上半身の空間、広がり、そして音圧を産み出す強固な作りが求められます。奏者のタッチやアンブシュアで色をつけなくても、極上のボディーから産まれただけの音に、純粋さと説得力と色彩があれば、それだけで人は魅了されるものです。

ここで孔雀がいよいよ登場します。孔雀を、囲いの外からではなく、近くからじっくりご覧になったことはありますか?美しいのはやはりオスの方でして、長い目玉模様の羽根を引きながら、ゆっくりと歩く様子は、王者の風格があります。その目玉模様の羽根を広げた姿は、オスがメスに求愛する場面で、生存に有利な遺伝子を持つことを、メスにアピールしているのです。

そして、なんともいえない微妙な色合い、奇妙な目玉模様、そして見る方向によって色を変える様子は大変に美しいものです。実はこの色の変化は、“構造色”と呼ばれるものでして、シャボン玉の様に、“光の干渉”が起きて現れています。クジャクの羽根の場合には,メラニン顆粒(かりゅう)の配列だけではなく,小羽枝(しょううし)の断面が三日月状であることや、ねじれていることなどが、光の反射特性に大きく影響しているのです。

フルートを構えた時、自分の体を、頭上まで、美しい羽根が、広く覆う様にイメージすると、純粋さと説得力と色彩が産まれる気がしませんか?それだけで人にアピールできるとは思いませんが、まずは純粋に体から発せられる音が響いていることが必要だと思います。それは例えば、素朴な息で表現される古楽器では、なおさらのことだと思います。トラヴェルソをピリオド奏法に忠実に演奏するのは当然ですが、響きの在り方は、体内部の事なので、トラヴェルソも現代のベーム式も、差異はないものだと感じます。僕はトラヴェルソをちゃんと勉強していないのですが、参考までに、今日のお話しの締めくくりとして、トラヴェルソとベーム式の両方の音をお聴きいただきたいと思います。ピッチは、トラヴェルソはバロックピッチなので415、ベーム式円錐管は19cピッチなので435、ベーム式円筒管は20cピッチなので442です。
Vol.19 [響き 2]「うしろ髪、ひかれます〜」

こんにちは。フルート塾19回目です。今回のお題目は「うしろ髪、引かれます〜」です。「響き」について、その2です。ここ最近のコンテンツでは、腹式呼吸のトピックも、脱力のトピック時も、まずイメージとロジックをお話しして、続いてメソッドを提案していますが、この「響き」についても、前回、イメージとロジックをお伝えしましたので、今回はメソッド、ですが、「うしろ髪、引かれます〜」という、そのままがメソッドになりますので、イメージそのものかもしれませんね。でも呼吸と脱力ができれば、響きの多くはイメージによって作られる気がしています。

前回お話しした、孔雀の様に、自分の頭上から、体全体を覆う様に、美しい羽根がまとっているイメージを持って、そのまま、うしろ髪が引っ張られる様に、背中から上へ向かって、音を響かせてください。しつこい様ですが、体の重心は丹田にありますので、おへそ辺りから下へ向かって体重が乗っている感覚はそのままです。その上でうしろ髪が引っ張られるわけです。そうすると、より、釣り合いの取れたボディーバランスになって、体の軸が整いませんか?後傾になりすぎない様にだけ注意してください。

それから皆さん思われる事ですが、音は、前に飛ばしたいですよね。5m,10m先に目がけて、「飛んでいけー」と思います。大きなホールで、最後尾の席まで、自分の音が行き渡ってほしいものです。でも、実際に、ホールを包み込む様な音というのは、飛ばそうと思うよりも、「自分の体の中で、回ってる〜」感覚が大事なんじゃかなと、思います。「自分の体の中で、回ってる〜」感覚という仕組みを、僕なりに紐解くと、次の様な説明になるのですが、

響かせる要素の中で、大きく占める感覚に、意外かもしれませんが、「感情表現の抑制」があります。我慢と言ってもいいです。抑制から引き出される感動は、他の感動要素よりも強いものです。感情表現を抑制することは、呼気圧の圧縮を高めて、輝く音色を作るのです。発音と感情は、出す一方ではダメで、「出す意志」と「出さない意志」が重要です。葛藤状態が維持されていると質の高いものが産まれてくるのだと思います。この感覚が、「自分の体の中で、回ってる〜」感覚だと考えます。音楽表現に置き換えると、パッションとサイレンスの両極を往来する中で、希望と同じくらい、悩みや苦しみのある人は、輝きのある魅力的な音楽を産み出せる、という事実と同じなのだと思います。

「うしろ髪、引かれます〜」と、「自分の体の中で、回ってる〜」ということをお伝えしましたが、どちらも鼻腔や軟口蓋が解放されている状態なのだと思います。イメージばかりでは、わかりにくいかもしれないので、2つ、メソッドらしいことを申し上げます。1.「耳の下を開ける」こうすると響きを作る領域が広がります。2.「腕を組んで歌ってみる」肩甲骨が柔軟に開いて、呼吸が楽になって、響きが太くなります。腕は、10度くらい前が、ちょうど無理なく胸郭が広がる角度です。
Vol.20 [アンブシュア 1]「おかめ?たこ焼き?小籠包?」

こんにちは。フルート塾20回目です。今回のお題目は「おかめ、たこ焼き、小籠包」です。アンブシュアのトピック、1回目です。これまでのビデオで僕は、アンブシュアよりもボディバランスが重要だと言ってきました。11回や12回のトピックでもアンブシュアに触れていますが、深く切り込まず、「自然である」と言及するにとどめてあります。でも、最終的には、音色を変化させながら音楽を描写するには、アンブシュアに極上の働きが求められます。今回から3回かけて、言ってみれば禁断の領域へ切り込んでいくつもりです。今回は口腔内について、次回は息について、そして3回目に唇についてと、分けてお話しします。

禁断の領域へ切り込む、と言ったものの、アンブシュアについて一般論的に言及するのはほとんど無意味なことで、対面で、個々の音色に応じたアドヴァイスを積み重ねてお伝えしていくしかないのが本当のところです。それをご承知いただいた上で、まずは今回、「おかめ、たこ焼き、小籠包」を共有していただきたいと思います。

豊かに響かすために充実した腹圧が供給されるに従って、それを受け止める働きをする口腔内には、大きなキャパシティーが必要になります。ズバリ、口腔内は、「おかめ」の下膨れに似た様相です。決してほっぺたを無理やり膨らます訳ではないですが、頬の下の方はプクプクと動いたりします。そして、熱々の「たこ焼き」を口に入れて、はふはふした時の空間が必要です。でもたこ焼きは大きいので、はふはふしながらも、噛んで小分けにして食べます。でも「小籠包」は、肉汁が流れて勿体無いので、はふはふしたまま全部を頬張ります。これくらい口の中は広いのです。マツコデラックスさん並みに、二重顎になって、首が、なくなるくらいに短くなるといいです。では演奏中の顔をアップでご覧ください。「おかめ、たこ焼き、小籠包」の感じと合わせて、跳躍やディナミクなど、息に対応してアンブシュアが変化している様相をご覧ください。
Vol.21 [アンブシュア 2]「風船と注射器と雑巾掛け」

こんにちは。フルート塾21回目です。今回のお題目は「風船と注射器と雑巾掛け」です。アンブシュアのトピック、2回目です。前回は口腔内についてでしたが今回は息についてです。

フルートにおける息の働きは、ヴァイオリンのボウイングに相当すると考えます。

ヴァイオリニストは、熟練したボウイングの技術で、ピアニストは鍛え抜かれた指先で、もちろん全身のパワーバランスと理性の上に成り立った上で、悲しい音、楽しい音、優しい音、厳しい音、ふざけたような音、愛情深い音、ふてぶてしい音、厳かな音、高貴な音、媚びるような音、祈るような音、懐かしむような音、など、人間の持つ様々な感情や、事物の印象を、楽譜から読み解いて、音符に命を与えるわけです。

さて、フルーティストは、息を吸う時に、お腹も背中も「風船」の様に膨らむはずです。風船の張力を「注射器」に置き換えてください。高い機密性が保たれていますので、吐くときは、圧縮圧力を強く感じながら横隔膜が上へ上がっていきます。そして息を安定的に供給するには、針の穴の様な小さいアパチュアから、ゆっくりとしたおおらかな息遣いが必要ですので、強い抵抗感を感じるはずです。この感覚は、「雑巾掛け」に似ています。小学校での雑巾掛けを思い出してください。適当にサーと拭くのでは不真面目です。真面目な掃除の仕方は、しっかり腰を入れて、呼吸を深く、全身から、雑巾を持つ手へ、パワーを伝えて、床の抵抗を感じる様にするはずです。僕は真面目な小学生だったので、そうしていました。

この3つの感覚がアンブシュアを極上にしていく息の働きです。では今日は、演奏中のお腹や背中、そして胸郭が拡張される様をご覧ください。対面のレッスンでは触ってもらえるので、よくわかるらしく、あるお弟子さんには、「先生のお腹の中になんかいる!」と言われました。あと、整形外科のリハビリや整体マッサージでは、必ずお腹の筋肉だけ、すごく驚かれます。ビデオでわかる範囲でお役に立てばいいです。こんな感じです。

Vol.22前編 [アンブシュア 3-前編]「ポイント、フォーカス、シェード」

(前編)

こんにちは。フルート塾22回目です。今回のお題目は「ポイント(point)、フォーカス(focus )、シェード(shade)」です。アンブシュアのトピック、3回目の今回は、まさに唇の仕事についてです。

フルートにおける、その最終的な役割を担うのがアンブシュアですが、はじめに、強く認識していただきたいことを申し上げます。もしも、「フルートは唇で吹く」そして「唇で調整する」というイメージや奏法をお持ちでしたら、改めた方がいいことは確かです。ではフルートはどこで吹くか?という問いには、しつこい様ですが、体全身の有機的な相関関係による、というのが実際ですが、それはわかりにくいと言われるのであれば、敢えてどこかというと、無理のある言い方ですが、やはり「丹田で吹く」のだと思います。そして唇で調整するのではなく、「唇は息に対応する」と思ってください。ですから、音色の繊細な変化も、唇の前に、まずは息によってニュアンスが作られます。この二つの認識が変わらない限り、アンブシュアに革命は起こり得ません。十人十色の奏法があるとは思いますが、本質的な基準ラインは存在します。そして、アンブシュアは、「神様からの贈り物」と思ってください。努力が報われるかどうかは、神様がお決めになる、くらいの気持ちで、何年経ってもよくならないこともある、と覚悟しておいた方が、忍耐が続くと思います。

でも、アンブシュアのトピック、最終回ですので、なんとか少しでも具体的なテクニックをお伝えしようと思います。

まず、たまに耳にするワード、「ポイント」ですが、多分、いい音のために、息を当てる場所のことだと思いますが、結論から言うと、もし「ポイント」を狙ってフルートを吹いているとしたら、できるだけ早くその段階を卒業できるといいと思います。いい音のする場所や角度があるにはありますが、ダーツの真ん中を狙うとか、針の穴に糸を通すとか、そう言う狙い方ではありません。冷えた手のひらを暖かい息で暖めるとか、赤ちゃんを寝かしつける様に頬に優しく手を当てるとか、そんなイメージの方が近くて、決してポイントを狙って吹き付けてはいけません。ポイントがあるとすれば、それはやはり口腔内であったり、横隔膜や胸郭の方にあります。バランスが取れた状態がポイントだとすれば、その状態がそのまま、均整の取れたアンブシュアの筋肉へと反映されます。結果、唄口に放射される息が綺麗な音に姿を変えるのだと思います。このあたりはどうしても抽象的にならざるを得ませんが、ダメ押しで、もう一言、「赤外線ヒーターの様」だと言っておきます。

大事なのは、どの「ポイント」に吹き当てるのではなく、耳で音を「見て」、それを映像的に「フォーカス」することです。肌理が荒いならサラサラにするための何か、濁っているなら透明度を上げるための何か、をしなければいけません。

そうして基本的なソノリテが準備できたら、単にピントを合わせるだけではなく、作品の中では、音楽の求める表情に応じて、さらに「シェード」が行われます。簡単に言うと色調のコントロールです。絵画の様に陰影や明暗、濃淡や質感までをコントロールします。光と陰、立体感、動的な表現を描くために、太い音、細い音、明るい音、暗い音など、様々な表現のテクニックを可能にするための何かをしなければいけません。

長くなりそうなので、ここで一旦、演奏をお聞きください。ディミヌエンド の感じ、音色の変化の感じをご覧ください。
Vol.22後編 [アンブシュア 3-後編]「倍音とシャーリング」

(後編)

さて、続きですが、耳で音を「見て」、それを映像的に「フォーカス」する、音楽の求める表情に応じて、さらに「シェード」を行う。「そのためにする何か」・・・これが悩ましいのですが、やはり言語化するのは難しいです。ただ、音域や音程、それからディナミクに関しては、言語化することが可能と思います。

必要な動作として、まずアパチュアの大きさをすごく小さくしたり、ある程度まで大きくしたりするための、表情筋の使い方です。横に引いたり、中央に集めたり、演奏中に、息に応じて柔軟に変化できることです。単純に音域が変わるとこんな感じですね。(1.吹く)

それからディナミクにおいて、下唇で唄口を塞ぐ度合いと、上唇が行う息の角度です。同じ高さの音でも、フォルテの時は少し多めにかぶせ、下向きになりますし、ピアノの時はかぶせるのを少なめにして開けて、上向きになります。ます。これは音程と、音色を、耳で作った結果、唇に要求される動作です。こんな感じですね。(2.吹く)

例として一番顕著なのがディミヌエンドです。息の量とスピードを減らしていく際に、音程が下がるのを補正するために、アパチュアを小さくする事と、少しエッジまで近づけることで、減らした息のスピードを補います。そして唄口の被せる度合いを少なめにする事と、上向きへ吹くことで、更に微細な音程を補正します。現代の作品はディナミクがはっきり書かれているのでわかりやすいです。(3.吹く)

音色に関しては本当に言語化は難しく、あえて言うなら、倍音とシャーリングでしょうか。倍音は息のスピードやエッジへの抵抗感で作ります。シャーリングは、あえて息をエッジから逃がすことで、光が差し込む様にして音の明度を上げることができます。表情の豊かなプレーヤーは、こういった音色の変化を、楽しむ様に演奏しています。

弦楽器奏者のボウイングでは、この表の様に、弓の、速さ、角度、位置や圧力などと、上げ弓、下げ弓とをミックスして、多彩に表情をつけます。フルートも、誤解を招くのを承知で、大雑把に音色を表にしてみました。僕の考えで恐縮なのですが、rich、warm、dark、braightと分けてみました。倍音が多ければrichでdark、倍音が少なければつまり基音が多ければwarmでbraightになります。そしてシャーリングが多ければrichでbraight、少なければ、darkでwarmな傾向になる様な気がします。説明が本当に難しいし、説明できるものでもありませんが、音符から得られる印象でイメージして、息と唇が反応する感じで、これらをミックスして、もちろん、それに加えてヴィブラートやアーティキュレーションも絡み合いながら、フレーズを表現しているのだと思います。こんな感じです。(4.吹く)

倍音とシャーリングを色彩変化に柔軟に利用するテクニックは、かなり難しいし、感性に因るところが多いので、練習と言うよりも、読書、絵画鑑賞、旅行など、普段から感性を磨く好奇心から出てくるものだと思います。 では、もう一度、演奏してみますので、ディミヌエンド の感じ、音色の変化の感じをご覧ください。
Vol.23「オプションどうする?」

こんにちは。フルート塾23回目です。今回のお題目は「オプションどうする?」です。フルートを購入する時に考えることと言えば、リングキーかカバードキーか、オフセットかストレートか、C足かH足か、Eメカを付けるか、などが一般的な範囲ですが、他にもいろいろありますよね。C#トリルキー、足部管のD#C#ローラー、Fisメカなどなど、いろいろあると思います。

僕は、いろんな楽器を使ってきましたが、今、感じていることを、今日はつらつらと、お話ししたいと思います。

まずはじめにH足ですが、低音Hは、19世紀以降の作品にはよく出てくるのであった方がいいです。ただ、最高音のCやCisを吹く時、ギズモキーを使わないと厳しいですよね。ただその音だけ吹くなら、ギズモを使ってもいいですが、ジョリべとかリーバーマンとか、ムチンスキーなどに頻出しますが、スケール的に複雑に、高速で出てくると、ギズモを使うのは、なかなか大変です。C足だとなんの問題もありません。ちなみにオールドヘインズはH足でもギズモが付いていません。薄管なので、ギズモがなくても大丈夫です。

そして、Eメカですよね。僕の中での結論は、現代のメーカーで、特に重めの楽器を買うなら、Eメカはあった方がいいと思いますが、9金や銀でも薄管など、軽めの楽器なら、なくてもいいかなっと思います。ヘインズやルイロットなど、アメリカやフランスのオールドフルートは、Eメカはないのが普通でして、なくてもほとんど不便しません。ただ、現代になると重量が重くなってくるので、Eメカがないと時にしんどいです。普通にEだけ吹くなら、それがピアニッシモでもさほど嫌ではないですが、高速でのアルペッジョや跳躍で高音のEが絡むと、ひっかかりにくい時があります。

それから、Eメカが付いていると、G-Aのトリルがちょっと出にくいですね。これも、軽い楽器はいいのですが、重いと難儀します。一個だけのシェイクくらいなら、まあいいのですが、長いトリルは厳しいです。Eメカなしだと、なんの問題もありませんよね。Eメカを付けて、C#トリルキーも付けると、G-Aトリルも問題なくなるのでしょうが、いろいろキーが増えて、ゴタゴタして、フルートが造形的に美しくなくなるのが、僕は好きでないので、これは嫌なんです。でもC#トリルキーは素晴らしい発明だと思います。

それから、C#D#ローラー。これは、あったらあったでいいけど、なくてもいいかなって感じです。これがあるから小指の動きに安心が得られるとはあまり思えません。テクニック的に小指の運動に問題がなければ、なくてもいいものだと思います。逆に、コルクが消耗してきてDisとCisの高さが合わなくなったり、ネジが緩んだりすると、この機能のせいで失敗することもあります。

Fisメカ、Fisレバーは、マイナーな機能ですね。Fisメカは左手がカバードキーになるのと、メカが増えすぎて美しくないので、好きではありません。Fisレバーには関心があるのですが、クーパーやメナート、ルーダルカルテでしか見たことがありません。。高音のFisが出しやすくなったり、中音のFisの音程が安定したりします。EメカとFisメカの同居は厳しいと思うので、あまり現実的ではないですね。でも、高音のFisのピアニッシモで、右手3の指を使うのは、音が悪くなるから極力避けたいので、Fisメカは魅力的です。でも、EもFisも、訓練で、習得できる範囲だと思います。ちなみに高音のFisですが、右手4の指でも3の指でもなく、2の指でF#キー(Aisレバーの前のキーカップ)を押さえるという、若干アクロバティックな代え指もあります。音色も音程も、どの運指よりいいのですが、高速時には使えません。

最後に、おまけというか、老婆心になりますが、お手入れの話しをちょっとします。当たり前のことですが、意外と雑な人が多いので聞いてください。まず、管内部の結露取りは、マメにしましょう。最低でも、30分に1回はした方がいいです。冬場は15分でもいいくらいです。そしてパッドの水漏れ確認も、ケースにしまうときは必ずしましょう。演奏中に水漏れがなくても、パッドにはついている時もありますし、ついていなくても湿気でいっぱいです。そして、キーオイルも、1,2ヶ月に1回は差してあげた方がいいです。自分でやるのは心配だと思いますが、何も難しくないし、オイルをしてあげるだけで、突然の故障を回避できると思います。もちろん反射板コルクの位置のチェックや、交換も忘れないようにしましょう。木製をお使いの場合は、ボディーのオイリングは必須です。頻度は状況によりますが、落ち着いている楽器なら月1回で十分です。楽器には製作者の魂も宿っていますので、大切に扱うと、どんどん良い音を奏でるようになっていくと思います。では、また。
Vol.24「自分の楽器が一番吹きやすい?」

こんにちは。フルート塾24回目です。今回のお題目は「自分の楽器が一番吹きやすい?」です。楽器は使うほどに自分に馴染んできて、自分の音に染まっていきますよね。どんどん愛着が湧いて離れがたくなるもので、長期修理の時などは、代替えの楽器で寂しい思いをすると思います。

楽器が自分に馴染んでくると言う感覚は、息は自分そのものですし、自分の息で楽器を育てているわけですから、当然です。その証拠に、同じメーカーの同じ機種でも、人の楽器は全然吹奏感が違いますよね。他方で、違うメーカーの楽器を吹いても、ある程度自分の音がすることも事実です。そして、自分の楽器を他人が吹くと、全く違う楽器のような音になることもあります。

少し穿った見方をしてみると、楽器が自分に馴染んでくる一方、もう一つの側面として、自分がその楽器に馴染まされた状態である、とも言えます。自分の楽器が一番吹きやすいというのは、自分の楽器でしか100%のパフォーマンスができない体質になってしまう恐れもあります。

どんな楽器でも吹けるように、もっと言うと、どんな状況でも吹けるようになりたいものです。「どんな楽器でも」と言うのは、メーカー問わず、原産国も問わず、材質問わず、スペックも問わず、19世紀のオールドでも、18世紀のトラヴェルソでも、もしかしたらカマボコでも・・・。いい音で吹けることです。「どんな状況でも」と言うのは、例えば空腹時でも満腹時でも、とか、寝起きでも寝不足でも、とかです。流石に、酒によっては難しいでしょうが。。。

「弘法筆を選ばず」と言うように、楽器を代えても音は良くなりませんが、異なる性格の楽器の音を、すぐに合わないと判断せずに、時間をかけて傾聴することで、新たな境地が拓けてくることは、僕の経験から、あると言えます。

例えばヘインズ、「ヘインズは音が出にくい」と言う人が時々といます。でも、特定のメーカーで音が出ないのは、やはり、奏法に、どこか偏りがあることに起因しているのだと思います。フィンガリングは、合う合わないが起こり得ます。管厚やキーデザイン、音孔設計が、各メーカー異なりますので、指の感じは、人それぞれ、大きさや動き方に違いがありますから。でも単に発音だけなら、2分でその楽器の性格を把握できるものです。ただ、曲を演奏するとなると、コントロールのしやすい楽器と難しい楽器とあります。その点、ヘインズは難しい方なので、演奏しにくいことはあり得ますが、満足した音が出ないと言うのは、技術を見直す余地があります。奏法を確認する意味でも、いろんな楽器を吹いてみることは有用なことではないでしょうか。

自分の音は自分が作っていますが、楽器の持つ固有の音色を引き出すのも自分の技術です。本当にいい楽器は、簡単便利なものでなく、音楽を知っているし、技術を教えてくれるものです。

僕はオールドフルートが好きで、たくさん持っているのですが、オールドはこれまでいろんな奏者のいろんな息で育てられてきていて、製作者の魂と一緒に楽器に染み込んでいますので、現代の楽器にない、不思議な魅力があります。「演奏中に、こんな表現もあるよ」と、楽器が勝手に歌い始める錯覚を覚えることもしばしばあります。

道具が使い手を選ぶ、使い手が道具に合わせる、と言うのも、職人的で一つの正しい考え方だと思います。可能であれば、複数の、性格の異なる楽器を所有して、楽器から奏法を学ぶことができれば、技術革新にいっそう拍車がかかると思います。ではまた。
Vol.25「音きれい?雑音?息もれ?」

こんにちは。フルート塾25回目です。今回のこのお題目「音きれい?雑音・息漏れ?」やっぱりこのテーマを避けては通れないので、これは言い尽くせないところありますが、少しお話ししてみようと思います。プロアマ問わず、関心の高いトピックですので、ぜひ最後までお付き合いください。

音色は人それぞれ、みんな違いますよね。自分の音が好きと言える人は、少ないのではないでしょうか。

「音が綺麗」って言うと、大概、雑音がない音のことを言うと思います。うっとりする様な、溶けそうな、美しい音の人、たまにいますよね。一体全体どうやったらあんな音になるんだろうって、誰でも、憧れを持つ存在は、いると思います。ところが、一方で、不思議なこともありますよね。僕が師事した先生方は、皆、雑音が多い方ばかりでした。ある先生は、目前で聴くと、雑音しかないって言うくらい、シャーリングが多いんです。でも、その先生の音は、オーケストラの首席ですので何度もホールで聴きましたが、雑音なんて全く聴こえなくて、めちゃくちゃ、はっきり、綺麗に聴こえるんです。その先生だけでなく、ほとんどの先生がそうだったし、これはよく聞く話しですよね。この謎は一体どう言うことなのでしょう。自分の音にも同じことを感じるときがあって、一人で吹いていると、本当に嫌気がさすものですが、本番が終わって、凹んで、録画をみると、ホールではすごく響いているんです。ただ、そう思える様になったのはここ最近の事で、ずっと、響かない時代が長かったです。

長年フルートを吹いてきて思いますが、雑音がないとか、うっとりするほど綺麗な音の人って、割と最初っから綺麗な音が出た人が多いと思います。つまり才能ですよね。ちょっとした工夫だけで、すんなり雑音のない澄んだ音になっている様です。全然努力なくそうなったとは言いませんが、音で悩んでいる人の苦しみは、多分理解できないのではないでしょうか。はじめから音が綺麗な人は、骨格が向いていたり、脱力が容易にできたり、偶然、そういった体質、体型、そして性格なんだと思います。そして音がいい人は決まって指も回ります。

音で悩んでいる人は、往往にして、脱力のしにくい体質で、体のバランスが整いにくいのか、指もあまり俊敏に動かない傾向があります。克服するには割と長い期間を要することが多くて大変です。でもこれは、必ずある種の方法で克服できることです。そしてそうやって苦労して獲得した音ほど、音楽を表現するにふさわしい音になると思います。ある種の方法とは、人それぞれですが、必ず見つけ出して解決する手段がある様に思います。

ただ、息漏れについては別問題です。雑音と息漏れは違う気がします。雑音は、声の一部になり得ます。例えば、雑音がない美しい音は、女性や日本人に多い気がします。男性や外国人にはそんな音の人はあまりいなくて、どんなに音のいい人でも、男性的な雑味の部分があるものです。その上、雑音のない人より、むしろある人の方が音楽的な表現をしている傾向さえあります。でも、息漏れは、単に吹き方が、どこかおかしいのではないでしょうか。でもこれは、直すのはそう難しくないと思います。決して唇の形や当てる場所なんかで、あれやこれやしないで、気を楽にして、呼吸法から正しくやり直せば大丈夫です。

はじめから音のいい人は羨ましいですし、そう言う人こそ、音楽の道は向いていると思います。なので音の才能はとても価値あることですが、だからと言って、雑音がダメなことは全くありません。努力で得た音も、それ以上に価値の高いものだと思います。雑音のない音の人は、音色の種類を増やす努力をする過程で、表現の壁で苦労をしているはずです。

美しい音とは、美しい心から発せられるものなので、自分の心に疑いがないのであれば、未来の音に希望を持って、今の音にも誇りを持って吹いてあげられると思います。
Vol.26「チューニングこわい?音程合わない?」

こんにちは。フルート塾26回目です。今回のこのお題目「チューニングこわい? 音程合わない?」ですが、趣味の方や、吹奏楽部で吹いている方の中に、ピッチの問題で悩んでいる人は多いのではないかなっと思い、取り上げることにしました。音程の良い吹き方、などは、いろんなサイトで伝授してもらえると思いますので、僕は、もっと根本的なお話をしたいと思いますので、ぜひ最後までお付き合いください。。

どの場面においても、チューニングがあると思いますが、気心知れた者同士でも、緊張することがありますので、チューニングを怖がる気持ちはとてもよくわかります。それから音程が合わないって、部活の先生や先輩に指摘されたり、共演者に迷惑をかけてしますと思ったり、神経が滅入る時あると思いますので、なんとか打開策があるといいですよね。。

コンクールの審査をしていても、チューニングをしているところを見て、その音を聴けば、その人の音楽的基礎能力が、8割がた、わかります。チューニングで感じたその人に対する評価は、10分の演奏を聴き終えた後でも、あまり変わらないものです。音程が悪い人は、大概音色も良くないし、音に芯がなくて、響きがありません。ノーミスで演奏を終えたとしても、高得点にはならないんです。。

打開策を自分で見つけるためには、専門家レベルのことを、少し知っておくことが道標になると思いますので、お話しします。まず、プロは、チューニングしない、ということです。しないって言うのは大袈裟ですが、しなくても大丈夫ってことですね。オーケストラで指揮者の登場前に必ずチューニングしますが、多分みんな念のため、っていうレベルです。そりゃプロは違うよね、って思うかもしれませんが、aを吹くのに何も超絶技巧は要りませんよね。当たり前の事ですが、演奏中の方が余程大変なので、まずはチューニングのことは、大したことないと、気楽に構えてください。。

「どうして、そんなにストレスがかかるのか」次に「どうしてプロはチューニングしなくてもいいのか」の2点に打開策へのヒントがあるように思います。端的に結論を申し上げると、ストレスがかかるのは、意識し過ぎ、力みすぎなんですよね。声門が閉じて息のスピードが早くなり過ぎているんだと思います。力んで重心が高いので、音が震えたり不安定になります。そして、なぜプロはチューニングしなでいいいかっていうと、耳が、セント単位で、音の高さを認識できるし、多少の違いはコントロールできるからです。さらに言うと、チューニングより大事なのは、演奏中、実際にいろんな音が重なった時、空気中にある音の中に溶け込める対応力で、高く取ったり低く取ったり、それを瞬時に行える柔軟性がある事です。チューニングでの数セントの違いは、対して問題にならないと言うことです。。

そして音程は、逆に、プロでも大変です。音程が少し濁ることは、あってはなりませんが、十分あり得ることなんです。でも、事故が起きたとしても、プロなら多分一瞬の濁りの範囲だと思いますので、小さいな濁りとして見逃される場合が多いのです。つまり、もし濁ったら瞬時に合わせることができるテクニックが必要なのです。。

チューニングと音程、両方に共通して求められる事は、正しい奏法と、高いソルフェージュ能力です。プロは、この2点において、鍛え上げられた技術があるのです。では趣味の方や吹奏楽部のレベルで、頑張ってほしいことは何かと言うと、正しい奏法に関しては、この一連の動画でなんども言っていますが、低い位置で重心を保って、しっかり支えて、ゆっくりした息で吹くこと。これを心がけるだけで、チューニングのaが、落ち着いてきて、唸りの周期が減って、溶け合う感覚が作りやすくなります。ソルフェージュに関しては、本当は多岐にわたる勉強が望ましいですが、差し当たっては、フルートよりも、コールユーブンゲンなど、声楽のメソッドで音程感覚を磨くといいと思います。。

そもそも、これも何度も言いますが、音楽は才能がものを言う分野です。小さい頃から音楽の教育を受けてきて、少しずつ修錬が実るっ、というものなので、何も下地がない状態で、例えば部活で中1でフルート始めて、いきなり「チューニング合わない!」とか、「音程悪い!」とか言われても、右往左往して当然です。それは指導者やその環境が良くないので、あまり気にせず、自分に今できることを一生懸命して、少しずつ、確かなテクニックを付けて行って、音楽が楽しめるようになってください。ではまた。