L.v.ベートーヴェン(1770-1827)


交響曲と、ピアノ曲の歴史は、ベートーヴェンが作ったと言っても過言ではない。

古典派とロマン派の過渡期に存在し、時代の狭間に新しい文化的価値観を見いだした人である。交響曲では型破りに大規模で、独創的な試みがあったし、ピアノ曲は改良の進んだその特性を活かし、ぶ厚い和音と幅広い音量変化を求めるシンフォニックな作品を手がけている。

一般にベートーヴェンの作品は重厚なイメージが強いが、彼の人となりを見れば、それもうなずける。それまでの作曲家が貴族や宮廷の保護のもとで使用人扱いを受けることが多かったのに対し、ベートーヴェンは貴族と対等に扱われることを要求した。


また、それまでの作曲家が音楽を供給する職人であったのに対し、ベートーヴェンは自分を芸術家として位置づけ、音楽が人間性の向上に役立つ、という思想をも持っていた。このために彼は実生活においても音楽においても自己主張が強く、革新的だった。

ベートーヴェンの音楽の魅力は、彼の不遇な運命と、苦悩に満ちた生活に立ち向かう、強靱な精神に因るものである。底なしの情熱と悲壮感、反して研ぎ澄まされた幻想と静寂感、そして全宇宙的な希望の高揚。それらの感情を見事な構築性でしっかりと支え、決して感情が一人歩きすることなく、実に芸術的な高まりを見せるのである。(この全宇宙的という捉え方は、ごく個人的な印象であるが、聴力を失った彼にしてみれば、それによって引き起こされた一種の必然だったのかもしれない。)

ベートーヴェンを演奏するとき、演奏家は常にその構築性を意識するし、品格と集中力を保つことにエネルギーを使う。したがって鑑賞の際にはやはり、その抑制の枠から滲みこぼれた感情を捕らえる、つまり作曲家と演奏家の交差する模様を追いかけると面白い。

交響曲では「英雄」「運命」「田園」「第九」は言うまでもないが、第1や第7、いや、是非9曲全部を聴いていただきたい。

ピアノ曲では「月光」や「熱情」、それからピアノ協奏曲の「皇帝」、また、序曲「コリオラン」や弦楽四重奏なども聴くと、一層理解が深まるかもしれない。

私が2010年に行ったベートーヴェンのリサイタルの際、作成した >>プログラム に、ベートーヴェンの人柄や生い立ちについての考察があります。よかったらご参照ください。